箪笥
あなたはアンティークものはお好きですか?
私は苦手です。
どんな物にも必ず気が宿っています。
使い込まれたものなら尚更・・・
あるお金持ちの家の
相談を受けた時の話です。
娘が何かに憑かれているかもしれないので
見て欲しいという内容でした。
問題の娘さんは
部屋から一歩も出ず、カーテンを閉め切り
大声で叫ぶという行為を繰り返してました。
心の病と医者では言われたそうですが
それだけとは思えないほどの
奇行振りに神社に相談にいらしたのです。
会うと
未熟な私でも一目瞭然で
憑いているかも知れない
どころの話しではありませんでした。
動物から
人からなんやゴチャゴチャと
沢山憑きまくって己を失っていました。
部屋で何をするかと言えば、
衣替えを何度も何度もしているのです。
娘さんに問いかけると
ブツブツ小さな声で
「コレジャナイ コレジャナイ・・・」
と言うだけでわけが分かりません。
とりあえず部屋を出て
精神統一して回りの様子を感じ取ってみました。
すると彼女の部屋よりも
地下から嫌なものを感じました。
家の人に尋ねると地下室があり
そこは物置になっているとのことでした。
私は地下室に
神経を尖らせながら入っていきました。
戸を開けた瞬間
ぶワッと生暖かい風が吹き抜けました。
私の神経に触れ、小さな諸々が弾けたようです。
家の人達は驚いて
悲鳴を上げミニパニックです。
それまで私の若さに
(当時18)
なめて掛かった感じがあったのに
態度が急転して可笑しかったです。
部屋の空気は澱んでおり
悪臭もしていました。
一番嫌な気が出ているのは
部屋の右側に置いてある箪笥でした。
古い立派な物でかなり高価そうでした。
ご主人に尋ねると
先月骨董屋で購入したばかりのものだとか。
かなり暗な気がしたので
そのまま箪笥を御祓いしました。
すると、不思議な事に
しばらくして、娘さんが正気を取り戻し
部屋を出てきたのです。
一件落着かと思われましたが
そこが始まりでした。
家に帰った夜、女が私の寝込みを襲ったのです。
依頼者の家からその日は直帰しました。
一度社務所に寄るべきだったのですが
自然に足が家へと向いたのです。
今思えば
そのとき既に
相手の術中にはまっていたのかも知れません。
違和感はそうありませんでした。
なんとなく眠気が襲ってきて
その日は早めに床に就きました。
何時間経ったかは分かりませんが
息苦しさに目を覚ますと動けません。
おまけに真っ暗です。
いつもなら薄明るく
全体が見えるはずの部屋が暗いのです。
「なんなの?」
私は血圧が低く
目覚めもよくないので
状況がつかめるまで数分掛かりました。
なぜ暗いか。
実は人の手で目隠しされていたのです。
何者かが私の目を両手で塞いでいました。
「あんた誰?なんでこんなことするの?」
尋ねても返事はありません。
すると部屋の中でごそごそと
何かをする音が聞こえました。
「コレジャナイ・・・コレジャナイ・・・」
そうです、昼間祓ったはずのものが
憑いて来ていたのです。
(いつもながら間抜け)
意識が完全に回復した私は
気で手を払い飛ばしました。
「何してんの!」
部屋を見ると
箪笥の引き出しが開けられていました。
はっきりいって余程の事が無い限り
霊が直接物体を
大きく動かすことは出来ません。
(私の知る限りですよ)
私の無意識を利用して
開けさせたのかもしれません。
箪笥の横で
女がこっちを真っ直ぐ大きく見開いた目で
見ていました。
祓詞を唱えようとすると
一瞬歯軋りをしてすうっと消えてしまいました。
次の日連絡して
もう一度昨日の家に伺いました。
そして箪笥の話を詳しく聞くと
ある旧家の屋敷の蔵にあったものを
骨董屋が譲り受けたそうです。
それをご主人が装飾の美しさに惹かれ
メンテナンス前に購入したとのことでした。
もう一度箪笥をよく見せてもらうと
すごい発見があったのです。
引き出しを全部出して、中を覗いたら
天板に
爪と髪の毛が入った和紙が貼ってあったのです・・・
一体誰が何のために
そんなものを貼ったのか?一種の呪術です。
私は購入先の骨董屋を紹介してもらい
話を聞きました。
ある家から電話を貰い
蔵の物を色々持っていって欲しいとのことで行くと
大きな蔵に沢山の掘り出し物があったそうです。
その中のひとつがあの箪笥でした。
蔵の一番奥に埃を被って置いてあったそうです。
先祖のものらしいが
主人はあった事さえ知らなかった物でした。
誰が使っていたものなのか分からないが
場所を取ると言う理由で只同然に持って帰ってきたとか。
人は面白いですね。
私が心霊関係で
箪笥の事を尋ねに来たというだけで
その箪笥を
10倍の値を付けて売った事まで話してくれました。
「そんなことして私まで呪われませんかね?」
ですって。
(しらねえよ)
ただ
メンテナンスはしていなかったものの
引き渡す前に
箪笥の背中に貼ってあった御札を
気持ち悪がられてはいかんと
剥がしておいたということでした。
どんないわれがあったのか分からないまま
その箪笥をきっちり呪いの分も祓いましたよ。
奥さんは気味が悪いという事で
神社に箪笥を納められました。
その夜
私は不思議な夢を見ました。
大きな家に住む少女が
家のため犠牲になる形で他の金持に嫁いでいくのです。
嫁入り道具は
母親の大事にしていた箪笥一竿。
嫁ぎ先の姑はきつく
何かとつらく当たり
約束の実家への援助も打ち切り
女の子しか産まなかった嫁を
子供諸共追い出したのでした。
嫁入り道具の箪笥は
それが気に入った小姑に取り上げられ・・・
女は出て行くとき
箪笥の天板に
己の爪と髪が入った和紙を
思いを込めて貼っていきました。
嫁が去った後
家は
みるみる衰退の一歩を辿ったのでした。
そんな夢。
その箪笥は人手に渡り
呪を残したままどこかで封印され
蔵に眠っていたのでしょう。
私は神社に置いてある箪笥を見るたび
人について色々考えてしまうのでした。
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