笑う男
今でもあの笑い顔は思い出すだけで不快な気分になります。
引っ越したばかりの部屋に
誰かいるかも知れないのでみて欲しいという相談でした。
どこにでもありそうなハイツ風の建物で
築10年といった所でしょうか。
そこにいました、あの男は。
玄関のところに立って私を見据えていました。
「ヨウ ハ ナイ カエレ」
男は私を拒否しています。
そう言われてもこっちは頼まれ事で来たのですから
放っておくわけにいきません。
相談主に
「今ここに居ます」
と言うと
ひきつった表情で『早くなんとかしてください』
と言われました。
男は50代くらいの背の低いポッチャリ型で爪が無い人でした。
指先には血がこびりついていて服は泥だらけです。
部屋に入って行くのに私の前に向かい合ったまま付いてきます。
その男は
嫌なものの塊でしかなくなっていました。
悲惨な亡くなり方をした者だったからです。
男は半自殺とでも言いますか、
嫌な最後を遂げていたんです。
仲間に半殺しの目に合い、あまりの苦しさに自らの命を絶った
というなんとも辛い最後をたどっていました。
その筋の人でした。
依頼人の住むハイツが建つ前は
恐らく個人ビルのようなものが建っていたと思われます。
男がみせた映像は3階建てのビルで2階部分が事務所になっていて、
一階はスナック
裏は小さな庭になっている所でした。
魂は今のハイツに残り
自分が苦しんだ分の少しでも同じ苦痛を
誰かに味合わせてやろうと悪い念になり
じっと波長の合う人間を待っていたのでした。
事実
依頼人は体の不調
家族の事故
仕事でのトラブル
と様々な不幸にあっていました。
おまけに
毎晩男は現れて
依頼人にいたずらをするそうでした。
「眠りに入りそうになると
金縛りから始まり、足や腕、背中のケイレンは
男が触れた時になる」
と苦痛の表情を浮かべながら話していました。
その話を私の傍で聞きながら
男は嫌な声で笑うのでした。
男の生臭い息が私に掛かり、ムセてしまう程でした。
私は大きな能力はありませんが
霊的なものを
移動させるというか
消すというか
祓う能力が少しあるので
知り合いの神社で勉強(修行?)して
力を使えるようになっています。
その時も男を祓うために祓詞を唱え念じました。
すると念の強かった割には
あっさり消えたので拍子抜けしてしまいました。
ホッとして帰途に着いたのですが
数日後友人と出掛けた時
事件は起きたのです。
車で移動中、突然嗅ぎ覚えのある異臭がしました。
そしてあれ?と思った時
ウインドウに
なんというかいやらしい引きつった笑い顔が
横切ったのです。
ああ、やられた!
男は一旦消えた振りをして
私に憑いて来ていたのです。
いきなり車が悲鳴をあげスピンしました
山道なのでガードレールの先は奈落です。
私は瞬間的に念を飛ばしていました。
レールに強くぶつかってもおかしくなかったのですが
ギリギリで車は止まりました。
もう少し気づくのが遅かったら
増してや男の気配に気づかなかったら
今ここにこうして居なかったかも知れません。
友人は顔面蒼白で震えながら言いました。
「道路の端に立ってたおっさんが飛び出して来た・・・
引いたかも知れん、どうしよ俺よう見んわ、見てきてくれんか?」
私は黙って、車の外に出てみました。
もちろんそんな人は誰もいません。
激しいタイヤの跡が残っているだけでした。
後日少し経って
落ち着きを取り戻した頃
友人にいきさつを話しましたが
それ以来あまり会わなくなりました。
その類の能力がある事は前から知っていましたが
直接こういう事があると
さすがに敬遠されてしまったようです。
神社の人に協力してもらい
なんとか
男は祓う事が出来ましたが
憑かれている間
精神的にかなりやられました。
相当強い念だったから
ちょっとやそっとでは跳ね除けられなくて。
今でもアノ顔は目に焼きついて消えません…
生きててよかった。
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